論語を楽しむブログです。このブログの楽しみ方については「第4回」を御覧下さい。
今回は、学而第一(14)その1です。
前回と同様に、書き下し文と逐語訳を並列に示します。
学而第一(14)の書き下し文と逐語訳(1)
子曰く、君子:(先生がおっしゃった。君子は ―)
食は飽くことを求むる無く、居は安きことを求むる無し、
:飽食を求めず、安居を求めず、
事に敏にして、而して言を愼(つゝし)み、
:仕事は素早く、言葉はひかえ目、
有道に就きて正さば、
:有徳の人に就いて自分の言行の是非をたずね、過ちを改めることに努力している。
學を好むと謂(い)うべきのみ。
:こうしたことに精進する人をこそ、真に学問を好む人というべきだ。
この逐語訳を基に、その意味を主観的に捉えて、今の社会に当てはまる教訓を見出し、日本語として自然になることを意識して訳してみました。
訳:本ブログの主観読みによる解釈
君子は以下の特徴を持つ。
1. 欲望に支配されない
2. 仕事が早い
3. 自分を成長させてくれる人と親交を深める
4. 学びを好む
本章は、君子の、典型的な特徴を述べています。
今の私たちの社会で言えば、学問、スポーツ、芸術など「その専門領域において優れている」かつ「人格者」、身近な例では、「勉強ができる」かつ「人としても立派な」学校の同級生/先輩、「仕事ができる」かつ「人として尊敬できる」職場の同僚/先輩/上司、などが君子に相当します。
君子として思い浮かぶ人は、本章が示す特徴を備えているでしょうか。
孔子は、目指すべき人物像として君子を捉えています。
備えたいと思う特徴はあるでしょうか。
その点にも注目して、君子の特徴を詳細に見ていきましょう。
1. 欲望に支配されない
たとえば、「食べたい」という願望は、通常、身体の「健康を維持したいという要請(根本的な目的)」から生まれます。そのような願望は、その目的が達成されれば収まります。ここではそれを欲求と呼びます。
ところが、美味しいものを食べると「更に、美味しいものを食べたい」という願望が生まれることがあります。そのように「更に、願望が生まれ続ける」という特徴を持つ願望をここでは欲望と呼びます。
欲望には終着点がありませんので、節度で制する必要があります。
もし、欲望に支配されると、節度が保てなくなり、根本的な目的を損なってしまいます。
たとえば、「食べる」という願望において節度を保てないと、食べ過ぎで、身体の健康を損ないます。
君子は欲望に支配されず、節度を保ちます。
欲望に支配されず、節度を持つ社会
君子という「個人」から個人の集合である「社会」に目を向けてみましょう。
「資産を増やす」という欲望があります。「資産が増えれば、更に資産を増やしたくなる」・・・資本主義がこの欲望に支えられていることはよく知られています。
ですから、従来の資本主義に基づくシステムは、その欲望に節度をもたらす仕組みを備えていました。
しかし、その仕組みを取り除き、節度を捨て、欲望を解放し、その欲望の支配を受け入れるシステムが現れ、世界に拡がりました。新自由主義に基づく経済システムです。
その結果、極一部の者に富が集中し、世界的に格差と貧困が拡大しました。
そこで、「経済システムは何のためにあるべきなのか?」という根本から見直し、社会の健全さ(特に、公益)、更に、地球環境の健全さまでを考慮した、新たなシステムが提案され、試行され始めました (2)。
「欲望に支配されず、節度を持つ社会」への転換が始まっています。
今の日本は、相変わらず新自由主義者が力を持ち、政策決定に影響を与え、格差と貧困は拡大し続けています。日本の多くの有権者がおかしいと気づくまで国力は衰退し続けるでしょう。その気づきを助けるという意味でも、君子の特徴1は、教訓としての意義があります。
今回はここまでです。
注)この記事にある解釈は筆者の主観による解釈です。
参照・引用
(1) 書き下し文と逐語訳は、以下を引用・参照、編集して採用させて頂きました
書き下し文:『論語 (漢文叢書)』WIKISOURCE
逐語訳:下村湖人『現代訳論語』青空文庫
(2) 「ドーナツ経済」、「ミュニシパリズム」など