第20回 学而第一(8) その2

論語を楽しむブログです。このブログの楽しみ方については「第4回」を御覧下さい。

今回は、学而第一(8)その2。前回の続きです。

学而第一(8)の書き下し文と訳

書き下し文『論語 (漢文叢書)』WIKISOURCE

子曰く、君子重からざれば則ち威あらず、學べば則ち固ならず、忠信を主とし、己に如(し)かざるものを友とするなかれ。過(あやま)たば則ち改むるに憚(はゞか)るなかれ。

下村湖人『現代訳論語』青空文庫

 先師がいわれた。――

「道に志す人は、常に言語動作を慎重にしなければならない。でないと、外見が軽っぽく見えるだけでなく、学ぶこともしっかり身につかない。むろん、忠実と信義とを第一義として一切の言動を貫くべきだ。安易に自分より知徳の劣った人と交っていい気になるのは禁物である。人間だから過失はあるだろうが、大事なのは、その過失を即座に勇敢に改めることだ。」

 

:主観読みによる解釈

人の上に立つ者は、次の点を心がけなさい。

軽薄な意志決定で役割に対する信頼を損ねないようにすること。

だからといって、決めたことに固執しないで、必要な変更を柔軟に行うこと。

状況の変化を分析し、その変化の意味をよく考えること。そうすれば必要な変更は自ずと見えてくるだろう。

変更を柔軟に、円滑に進めるためにも、人の上に立つ者もメンバーも、日頃から取り組みに誠実に向き合い、お互いの信頼関係を築いておくこと。

忖度して自分を低く見せ、聞き心地のよいこと(甘言)ばかり語る者は遠ざけ、

誠実で、聞き心地の悪いこと(諫言)も語る信頼のおける者を近くに置くこと。

そうして、意志決定に過ちが見つかったら速やかに是正すること。

面子(メンツ)に拘ってその是正を躊躇するようなことがあってはならない。

己に如かざるものを友とするなかれ

「己に如かざるものを友とするなかれ」を客観読みすれば「自分よりも劣る者を友人にするな」とも読めるようです。この解釈は結構流通しているようです。「朱に交われば赤くなる」の連想でしょうか。本ブログでは次のように解釈します。

上に立つ者は周りの意見に耳を傾けます。周りにいる者達の中には、太鼓持ち」、「イエスマンなどと揶揄されるような者達がいます。彼等は、忖度し、上に立つ者の気分を害さないよう常にへりくだり、上に立つ者の気分を良くするよう常に褒め称えます。それに惑わされて、意志決定の誤りを是正する機会を逃してしまうことがあります。だから、そのような者達を近くに置いてはなりません。それが「己に如かざるものを友とするなかれ」です。

では、どういう者達を近くに置けば良いのでしょうか。それは、直前に語られている「忠信を主とする」が示しています。誠実で信頼のおける者を近くに置きなさいということです。

「甘言耳に快く諫言耳に痛し」という言葉があります。誠実な者達の諫言は耳に痛いかもしれませんが、「学而第一(4)三省」で学んだ通り、それは取り組みの成功には欠かせないものです。

過たば則ち改むるに憚るなかれ

人は未熟なので過ちを犯します。状況を分析し、側近など関係者の誠実な意見に耳を傾けて、柔軟に対応して慎重に事を運んだとしても過ちを犯すときがあります。その過ちに気づいたときは「憚る=ためらう」ことなく速やかに是正する必要があります。それが「過たば則ち改むるに憚るなかれ」です。論語の中でもよく知られた教訓の一つです。

その是正を躊躇させる一番の原因として考えられるのが面子(メンツ)ではないでしょうか。国力に大きな開きがあり、戦争になったら負ける可能性が高いことを理解していた者が日本には多くいたにもかかわらず、アメリカに戦争を仕掛けて太平洋戦争は始まりました。その反省を調べると「軍部(陸軍/海軍)の面子(メンツ)」という言葉が見られます。「国の存亡」と「一部の組織の面子(メンツ)」を秤にかけて「面子(メンツ)」の方が重いと判断した「人の上に立つ者達」が、かなりいたということです。極端なウソのような話に見えるかもしれませんが事実であり、この他にも、面子(メンツ)を侮ってはならないという事例はいくつもあります。孔子の時代もそうだったのではないでしょうか。

 

本章は、バラバラに語られたことを寄せ集めたもの、とみなされることもあるようです。本ブログでは、主観読みで「威厳の大切さから始まり、面子(メンツ)に拘らないことの大切さで終えるという一連の流れがある」と読み取って解釈しました。

論語はいろいろな読み方を楽しむことができます。

 

教訓:本章の教訓をまとめます。

威厳を損なわないようにすることは大切なことだ。

しかし、面子(メンツ)に拘らないようにすることがそれ以上に大切なことだ。

もし、自分/自分たちに過ちがあると分かったら、躊躇せず、速やかに是正しなさい。

 

今回はここまでです。

注)この記事にある解釈は筆者の主観による解釈です。