第23回 学而第一(11) その2

論語を楽しむブログです。このブログの楽しみ方については「第4回」を御覧下さい。

今回は、学而第一(11)その2です。

学而第一(11)の書き下し文と訳

書き下し文『論語 (漢文叢書)』WIKISOURCE

子曰く、父在(いま)せば其の志を觀(み)、父沒すれば其の行を觀る、三年父の道を改むる無きは、孝と謂(い)ふ可(べ)し。

 

下村湖人『現代訳論語』青空文庫

割愛します(第22回 学而第一(11)その1を御覧下さい)。

 

前回は、「父」を「経営者」と置き換えて、事業継承についての教訓を見出しました。

今回は、「先人」と置き換えて「先人が築き上げたものの継承」という観点から本章の教訓を見出します。

教訓

先人が築き上げたものには、先人の思い、知恵、経験が織り込まれている。それらは、今でも意義を持つものも多い。先人の苦労を理解すれば、それらを軽々に変えるべきではないことが分かるだろう。それが先人に対する敬意というものだ。その上で、熟慮し、その結果、それらを変える必要があると判断するのなら変えればよい

憲法を変える

最近、日本国憲法を変える(改憲)という話題がよくみられるようになりました。

憲法を復習します。ジョン・スチュアート・ミル(1806 – 1873)の『自由論』(1)によると、支配者(統治者)の権力を制限することが、人々の「自由」の中身であり、憲法に基づく権力行使のチェックもその一つでした。

「近世になって、政治上の自由主義的要求に基づき、様々な専制特に君主の専制権力に対して制約を加えるための、一定の政治原理を含む基礎法が確立され、これを憲法とよぶようになった(2)のでした。

現代の憲法には「先人の思い、知恵、経験」が織り込まれています。

具体的には、近代西洋で起こった「支配からの解放=自由の獲得」という歴史的な流れの中で生まれた様々な価値観や原理(国民主権など)が織り込まれています。

それらの多くは、今では水や空気のように当たり前に必要なものとみなされていますが、多くの時間をかけ、多くの人々の血が流されて、獲得されたものなのです。

そのことを理解すれば、マスコミが作るムードだけで軽々に憲法を変えてはならない、ということが分かります。それが先人への敬意です。

そのような敬意を払った上で、何が問題で、なぜ法律ではなく憲法を変えねばならないのか、変えることで先人によって獲得された価値観や原理を失うことはないのか、などを熟慮した結果、それらを変える必要があると判断するのなら変えればよいのです。

それが、本章の教訓です。

手段の目的化

改憲の議論の中には「変えること」を目的とした議論が見られます。「変えること」は手段です。そのように、ある目的を実現するために手段を選択したはずなのに、その手段を実行すること自体が目的化してしまうことを「手段の目的化」と言います。

通常、何かに取り組む場合、目的に応じた目標が設定され、その目標に達していなければ、その手段の妥当性が問われます。目標は手段の妥当性を判断する反証を提供します。ところが、手段を目的化すると反証可能性を見いだせなくなることがあります。

大阪では「身を切る改革」によって医療体制を大幅に縮小して、新型コロナで大きな被害を受けました(3)。その意味では「改革」は失敗と言えるでしょう。

しかし、もし「改革という手段」を目的化して、「達成されていないのは改革だ」とすり替えて、「まだ改革が足りない」を失敗の理由にすることができればどうなるでしょう。「改革」の失敗を確認(反証)する手段はなくなります。成果の出ない「改革」は「改革が足りない」という理由で永遠に続くことになります。それはもはや「改革」という名の宗教です。

 

小泉純一郎首相(当時)は、構造改革、特に、郵政民営化に反対する人々を「抵抗勢力」と呼び、「変えない人=既得権者=悪人」というイメージを作り上げました。郵政民営化で私たちの暮らしや社会がどう良くなるのかという目的の議論は曖昧にされ、民営化という手段の達成が目的に据えられて、その是非が問われました。この手法で選挙に圧勝して以来、その手法が目につくようになりました、

今では、日本は、改革という言葉が氾濫し、「変えない人=既得権者=悪人」というイメージが定着し、改革という手段の目的化が日常化した、「改革教の国」になったのかと思えるような社会になりました。

そのような社会だからこそ、本章の教訓が意義を持ちます。

 

今回はここまでです。

注)この記事にある解釈は筆者の主観による解釈です。

 

参照・引用

(1) ミル『自由論』光文社 2012 第1章

(2)    コトバンク日本大百科全書(ニッポニカ)「憲法」の解説
(3)    長周新聞 「「維新」が壊した大阪の医療」2020年12月20日